昨年の2月まで在日米軍司令官としてご活躍頂いたライト中将にお願いしてハーバード大学のアジアセンターにおいて「The U.S.-Japan Alliance : A Fifty Year Perspective」と題して講演してもらいました。モデレーターをおなじみのエズラ・ヴォーゲル先生に依頼しました。この講演には日米関係の専門家や日本からの研究者、学生等多数の聴衆の参加を得て質疑応答も含め好評のうちに終了しました。

 講演の要旨は以下の通りです。

 アメリカン・エンタープライズ・インスティチュートのマイケル・オースリンは昨年秋に出版された新刊書の『自由の保障』において、日米関係について以下のように説明しています。

 「過去50年間に亘り日米同盟はアジア太平洋地域の平和と安全を守る基軸であった。日米同盟は米軍部隊の前方展開を可能にするとともに、日本の安全を保障してきた。現在、この同盟関係の前には、台頭する地域大国中国の出現、核の保有をちらつかせる北朝鮮、不安的な南アジア地域の情勢等、幾多の難題や試練が立ちはだかっている。ワシントンと東京の課題は、地域安定の要である日米同盟の安定した運用に支障となる障害を取り除くことである。日米双方は、各種事態に適切に対応できるよう更に緊密な体制を構築していく必要がある。このことは極めて困難なチャレンジであるが、両国にとってクリアしなければならない重要な課題である。共同戦闘可能な強固な軍を前方展開しておくことが、ひいてはアジア太平洋地域の安定化という政治的なゴールを獲得できることに繋がる。」

 日本には在日米軍司令官としての配置を含め3回の勤務経験がありますが、米軍の存在は日本の安全保障のために欠かせない存在であるという高い評価を頂いていると認識しています。実際、東アジア太平洋の複雑な安全保障環境の中で、日米同盟は長年にわたり日本やその周辺の安全を確実に保障してきましたし、平和は獲得できるものだという確信を提供してきました。

 日米関係の将来についていろんな見解がありますが、ここ数年の日米関係は過去の歴史に無いほど緊密化しています。相互の協議は、包括的戦略目標、役割・任務及び能力の明確化、米軍のプレゼンスを確保するための再構築等にわたるようになり、より具体的・現実的になってきています。

 日米の戦力再編は一般に「再編実施のための日米ロードマップ」と総称されています。2006年5月1日、両国政府首脳によってキック・オフされた以降、具体的な調整が既に3年間もなされてきています。ブッシュ大統領及び歴代の首相はいずれもこのロードマップの推進に積極的です。

 東京においては、米大使館と在日米軍が「カントリーチーム」として緊密に連携しつつ、防衛省・外務省その他の関係省庁及び自衛隊と具体的な調整を積み重ねてきました。双方とも米軍の安定した日本駐留が日本の防衛及び周辺地域の安全と平和確保に直結することを十分に認識しています。安定した基地使用のためには地域との摩擦を避けるための新たな枠組みが必要になります。

 

 再編のためのロードマップ」の最大の案件は沖縄内の米軍基地移転問題です。これは普天間基地を閉鎖して人口過疎地のキャンプ・シュワブに移設し、海兵隊普天間基地は沖縄に返還するという計画です。普天間は沖縄中央部の人口密集地に所在しており、この基地の閉鎖は地域に対する騒音問題を大幅に改善するものとなります。グアムの受け入れ態体制が整い次第、約8000人の第Ⅲ海兵機動展開部隊はその家族も含めグアムに移転します。これにより約1万人の海兵隊員が沖縄に残ることになります。結果的に沖縄の負担を相当軽減することになります。この移転は経済的にも沖縄を利するものになります。安定した駐留をさせてもらうため、米軍として着意していることはいつも真摯に謙虚に対応することだと考えています。コミュニケーションをしっかりとることもとても大事です。また、駐留する兵士には皆が「駐日大使」だと意識すべしと指導していました。

 「ロードマップ」の完整年度は2014年であり、両国政府はその目標年度に向けて鋭意努力中です。「ロードマップ」は米軍の地域に対するプレゼンスを確実なものにする鍵となるものであり、これにより日米同盟は更に地域の安定に寄与するものとなると確信します。

 その他の施策として、航空機の訓練移転、横田空域の柔軟な運用に関する措置の実施、厚木飛行場から周辺地域の生活環境への影響がより少ない岩国飛行場への空母艦載ジェット機及びE2Cの移転等があります。これにより海上自衛隊のEP3等が岩国飛行場から厚木飛行場に移転します。

 キャンプ座間の在日米陸軍司令部は、展開可能で統合任務が可能な作戦司令部組織として近代化されます。改編された司令部は日本防衛や他の事態において迅速に対応するための追加機能を有することになります。また、日米の緊密な連携のため、自衛隊は、機動運用部隊や専門部隊を一元的に運用する陸上自衛隊中央即応集団司令部をキャンプ座間に移転させます。重要なことは双方の指揮官や幕僚がフェース・ツー・フェースで調整できるようになることです。

 航空自衛隊は、航空総隊司令部等を2010年内に横田基地に移転させ、日米の共同航空運用調整所(BAOCC)を設置して、日本の防空及びミサイル防衛の共同運用機能を構築します。共同ミサイル防衛能力の向上を図るため、米軍のXバンドレーダーを航空自衛隊車力基地に既に配備完了し、その情報は双方で共有しています。 2007年12月海上自衛隊のイージス艦「こんごう」はハワイ沖においてSM3による射撃を成功させ信頼性の高いことを証明しています。  「ロードマップ」には日米共同訓練の活性化もプログラムされています。米軍の戦闘機が航空自衛隊の各基地に展開し模擬戦闘訓練を実施しています。これにより、日米軍人相互の信頼感が更に高まります。

 横田基地の共同統合運用調整所(BJOCC)は日本に対する米軍の前方展開及び日米共同の最も象徴的でかつ実効的な存在となっています。最新の通信システムが設置されたこの司令部では、日米双方の指揮官、幕僚が密接に連携しつつ共同活動します。フェース・ツー・フェースで意思疎通できるということは非常に重要なことです。このことは堅固な日米関係を維持していることの証でもあります。

 共同訓練は日本国内に限らず、グアム、アラスカ、ハワイ、米本土とその機会を拡大しています。共同訓練はお互いプロとしての信頼感を醸成するものとなり、これこそ日米同盟関係を強固なものとする礎となります。我々の後輩緒官の絆はとても固く同盟の将来は明るいと確信しているところです。日米双方の軍は東アジア太平洋において50年に亘って態勢を維持しつつ安全を確保してきました。堅固な日米関係は今後とも地域安定のための「コーナーストーン」であると確信します。』 (文責:永岩)


 講話の後の質疑応答では、中国の台頭への軍としての対応、北朝鮮問題、米軍の駐留に対する日本国民の反応、米軍のトランスフォーメーション、シーファー大使との関係等々広範な関心の質問が寄せられました。場所柄、軍高官の新鮮な実務経験を聞ける機会の少ないこともあり、また、ライト前司令官のフランクな対応振りで非常に活発な質疑応答になりました。学究者にとっては理論と現実のギャップを埋めるいい機会となったようで、メディアを通じて得る日本観との乖離も意外だったようです。日米のユニフォーム同士の信頼感の強さにも関心が集まっていました。堅固な同盟関係も結局は人間同士の信頼感であることが大いに理解されたようです。ライト前司令官に来てもらってよかったとエズラ・ヴォーゲル先生も非常に喜んでいました。」    (ボストン在住、永岩会員記)


The U.S.-Japan Alliance : A Fifty Year Perspective
(日米同盟 : 50年の展望)