平成30年2月15日(木)、平昌(ピョンチャン)オリンピックの熱気漂う中グランドヒル市ヶ谷「珊瑚の間」において、「つばさ会/JAAGA訪米団」報告会(1320〜1350)及び航空幕僚監部人事教育部長鈴木康彦空将補による「航空自衛隊の人事教育等施策について」の講演会(1400〜1530)が行われ、JAAGA会員74名(正会員45名、個人賛助会員8名、団体賛助会員1団体1名、法人賛助会員14社20名)が聴講した。また、正会員である宇都隆史参議院議員からの祝電が披露された。

【「つばさ会/JAAGA訪米団」報告会】
 平田理事から、平成29年度の訪米概要として、岩崎会長を団長とする訪米団9名の紹介、及び、研修日程として、9月10日に羽田を出発し、ハワイ州パールハーバー統合基地(Joint Base Pearl Harbor)に2泊(太平洋軍司令部、太平洋空軍司令部、ホノルル総領事公邸等を訪問)、アリゾナ州ルーク空軍基地(Luke AFB)に2泊(操縦者教育を担う第944戦闘航空団を訪問)、コロラド州ピーターソン空軍基地(Peterson AFB)に2泊(空軍士官学校、宇宙軍司令部、北方軍司令部、北米航空宇宙防空司令部、シュリーバー空軍基地(Schriever AFB)第50宇宙航空団等を訪問)、ワシントンD.C.に5泊(JAAGA名誉会員と交流、米空軍協会(AFA)コンファレンスに参加)し、22日に成田に帰国した旨が説明された。
  研修成果は3点に集約し、@様々な教訓が得られたこと、A米(空)軍の現状を確認するとともに日本及び航空自衛隊に対する信頼と期待の大きさを痛感できたこと、B日米間の相互理解の促進に寄与できたことが述べられた。
 引き続き、成果の細部及び各訪問先での活動が、JAAGAだより第53号(平成29年12月25日)掲載の「『つばさ会/JAAGA訪米団』AFA総会参加等報告」の内容を簡潔にした形で説明された。加えて、献花先であるハワイのマキキ海軍墓地について「明治以降ハワイに寄港し任務半ばにして病に倒れハワイの地で命を落とした旧帝国海軍の英霊が埋葬されている墓地である」等、より詳細なエピソード等を織り交ぜた説明がなされた。
 質問は特になく、多くの関係者の献身的な事前調整、現地での積極的な支援により円滑・充実した研修となったことに対し感謝の意を表して報告を終えた。

 

【航空幕僚監部人事教育部長講演会】
 引き続き、航空幕僚監部人事教育部長鈴木康彦空将補による「航空自衛隊の人事教育等施策について」の講演会が開始された。
 冒頭、鈴木人事教育部長から「日米相互特技訓練」等に対する常続的なJAAGAの支援・協力に対して、謝意が述べられた。
 また、入隊以降の主要補職を提示しつつ、3回の沖縄勤務、2回の海外留学、空幕勤務(大半が人事部門(担当、課長、部長の3回経験者は初))、及び外務省出向、中空防衛部長、83空隊司令、総隊司令部防衛部長時に関わった大きな出来事等の切り口で、軽妙な自己紹介が行われた。東日本大震災や中国、北朝鮮に関するエピソードが紹介される中、前職の総隊防衛部長時代、横田基地内に空自将官宿舎と米軍指揮官等宿舎が隣接していることから、カウンターパートである5空軍副司令官と緊密に連携できた等、同じ基地内に日米両司令部が所在するメリットを痛感したことが披露された。
 引き続き、空幕人事教育部の5つの課(人事計画課、補任課、厚生課、援護業務課、教育課)の担当分野を提示しつつ、人事教育に係る業務は、隊員一人一人の入隊前から退職後までに関わる非常に幅広いものであり、個々の隊員の精強性、技能、士気、モチベーションを高め精強な自衛隊であるためのあらゆる施策に取り組むにあたり、部下に対しては「人」を扱う仕事であることを肝に銘じるよう指導していることが強調された。
  その後、いよいよ本題に入り、近年の環境の変化などに対応するため人事教育部が取り組んでいる諸課題の中から6項目(@募集状況、A男女共同参画、B操縦者の状況、Cレジリエンス・トレーニング、D援護業務関連施策、E空自「空上げ」)を取り上げ、概要以下の通り、紹介された。

1 募集状況について
(1)自衛官の募集
 いくら募集を頑張ってもそもそもの募集対象者人口(18歳〜26歳)の減少が続くのが、将来直面する問題。また、有効求人倍率の上昇に反比例して志願者は減少する。一般幹部候補生、航空学生、一般曹候補生の倍率は低下しており、29年度、一般曹候補生について通常の秋試験に加え既高卒者を対象とした春試験を導入し、海自は航空学生の対象年齢を22歳まで引き上げる等の工夫をしている。自衛官候補生(男子)の採用状況は、少子化、好景気、任期制への魅力低下、若者の気質、親御さんの心情の変化等により、採用計画を割り込む厳しい状況。空自は以前は比較的人気があったが、最近は陸自に押されている。このような中、募集広報の更なる充実、優秀な広報官の地方協力本部への派遣、隊員自主募集(旧:縁故募集)の強化等を重視している。
(2)予備自衛官の募集
予備自衛官には、予備自衛官、即応予備自衛官、予備自衛官補の3種類があり、空自で現在採用しているのは予備自衛官のみ。招集区分は、防衛招集、国民保護等招集、災害招集、訓練招集があり、東日本大震災時は空自の予備自衛官として23名が初めて実動招集され、松島、山田で被災者に対する生活支援を実施し、様々な課題も確認できた。予備自衛官の業務は、佐官、尉官及び准曹士の別に、現職時の経験及び知識に見合った職務を指定する等、わが国を取り巻く環境の変化に柔軟に対応しつつ、最大限活用できるよう適時見直しを行っている。空自の予備自衛官の充足率は平成15年度以降減少し70%程度であるが、平成27年度からの充足率向上施策(退職後2年目の再勧誘、退職前隊員への制度周知の強化、招集訓練の魅力化、雇用主の理解促進)の成果が徐々に上がっている。また、雇用主に対するインセンティブとして、建設工事の総合評価落札方式における評価(予備自衛官の現場配置状況に応じて加点)、雇用主に対する情報提供制度、予備自衛官等雇用企業協力確保金、等の取り組みを実施または予定している。

2 航空自衛隊における男女共同参画推進等に係る施策について
 政府方針を踏まえて平成27年に策定された「防衛省における女性職員活躍とワークライフバランス推進取組計画」を受け、全隊員が最大限能力を発揮できる組織環境を整え空自の精強性を維持向上させることを目的として、4つの柱(@女性隊員の活躍推進のための取組、A男女隊員が育児・介護等と両立して活躍できるための取組、B働き方改革、C意識改革)を掲げた。
(1)女性隊員の活躍推進のための取組
 女性自衛官の総人員占有率は平成41年度末目標の約10%に対し現在7.3%程度であり、課長補在(3佐クラス)以上の政府目標約10%に対しては3.5%程度である。防大40期(女子1期)は6名全員が在職(3名は1佐)している。新隊員の教育隊については、防府南は収容限界があるので、熊谷等でも受け入れ施設拡充を模索中である。
 メンター制度(職場内の先輩(メンター)が後輩(メンティー)に対して行う個別支援活動として、全国73の基地等に跨がり身近にロールモデルがいない隊員の状況も考慮し、キャリア形成や育児・介護等と仕事の両立を相談対象とした制度)を平成28年度から試行している。男女全ての希望隊員をメンティー対象者とし、現在約250名の隊員がメンターに志願・登録し活躍している。
(2)育児・介護等と両立して活躍できるための取組
 男性隊員の育児参加等の促進(育児休業の取得促進、チャイルドケア・セブン(配偶者出産特別休暇2日、育児参加特別休暇5日)の100%取得、子の看護のための特別休暇の利用促進等)について実施中。任期付自衛官制度(育児休業または配偶者同行休業により不在となる隊員の代替要員として、その休業期間を任期の上限として元自衛官を採用することが出来る制度)の実績は向上している。基地内託児施設の整備を推進中であり、29年度には市ヶ谷にも開園。空自としては28年度に入間基地内に「Jキッズスカイ入間」を開園し、ハロウィーン時には子どもたちが各部隊を回りお菓子をもらう微笑ましい光景も見られた。また、緊急登庁支援策(災害派遣等での緊急登庁の際、子供を帯同して登庁せざるを得ない隊員の支援)も試行・運用中である。
(3)働き方改革
 テレワーク(在宅勤務)を導入可否を含めた検討のため一部職員をもって試行中である。
(4)意識改革
 「ゆう活」(=夏の生活スタイル変革)の促進、男女共同参画推進集合訓練(制度説明、指揮官の意識向上のための意識啓発講演)の実施、男女共同参画推進等ハンドブックの全隊員への配布、及び、女性自衛官活躍紹介パンフレット(「空女」(そらじょ):http://www.mod.go.jp/asdf/about/ge_wlb/index.htmlで閲覧可能。)の配布等を行い、意識改革に取り組み徐々に成果が上がっている。

3 操縦者の状況について
 女性戦闘機操縦者の養成状況としては、平成5年に操縦職域を含む全ての職域を女性自衛官に開放、平成7年から女性操縦者の養成を開始(戦闘機、偵察機を除く)し、約20年間の実績等を踏まえ、性差に拠らず個人の能力、適性及び意欲を有する隊員を全ての配置に登用することが適切との結論に至り、平成27年度に女性自衛官の戦闘機等への配置制限を解除した。現在1人目が戦闘機操縦課程を履修中であり、順調に養成が進んでいる。

4 レジリエンス・トレーニングについて
 レジリエンスとは、逆境や困難に耐え、回復し、成長する能力(強くしなやかな折れない心)のことを言い、長期化するグレーゾーン事態への対応、多様化・複雑化する任務への対応が求められる中、人的戦力の健全性を維持・向上させ航空自衛隊の精強化に資することをねらいとして、28年度から正式にレジリエンス・トレーニングを導入した。米空軍のレジリエンス・トレーニング手法を参考にしつつ、心理的、身体的、社会的、精神的レジリエンスの4分野にまたがるトレーニング手法を取り入れた。編合部隊・編制部隊レベルの指導者として、心理幹部、心理療法士、心理学の素養を有する者を集合教育や部外委託教育により「マスター・レジリエンス・トレーナー」として養成(29年度入間基地で38名を養成)、その要員をもって、編単隊レベルの指導者となる「レジリエンス・トレーナー」を育成し、30年度末までに、全隊員が最低1回はレジリエンス・トレーニングを実施することとしている。

5 援護業務関連施策の紹介
 若年定年退職者(1佐)の現状は、一般企業、防衛関連企業半々程度であるが、輸入装備品の増加に伴い防衛関連企業の採用枠拡大が困難となっていることや年金支給開始年齢までの雇用延長に伴い、今後10年程度はローテーション枠数が一時的に圧迫されるので、今後は新規採用企業の確保が従来に比して必要となる。1等空佐の職責を踏まえ、退職自衛官の意思と能力に応じた新たな分野における再就職先の確保も喫緊の課題である。
 このため、今年度当初から、「新規開拓プロジェクト」と銘打ち、@退職予定者の意向等を踏まえた新規雇用企業の拡充(主に採用実績のない企業に対する重点訪問、「企業説明会」の開催)、A民間危機管理(BCP/BCM)部門における再就職枠の確保(当該部門への再就職希望者への動機付け等のため「民間危機管理講習会」を開催)、B自治体防災監等への採用枠の拡大(現在空自OB29名が防災監等として採用。退職者数が限定的であることから、大規模震災の蓋然性が高い地域を優先して進めていく。)、C人財紹介資料(PR資料)の充実(一般向け、BCP/BCM向け)(景気が良いため、任期制隊員の再就職は良好であるが、1佐レベルは苦労している)に取り組んでいる。

6 空自「空上げ(からあげ)」の普及に向けた取組み
 隊員の食に対する意識と関心を高め、不喫食の低減、生活習慣病の予防・改善を図ることを目的として、27年度から「航空自衛隊食育の日」を設け、食育献立、食育教育等の取組みを実施している。28年3月、食育の日の空自統一料理を鶏の「空上げ(からあげ)」と決定し、自衛隊記念日に全基地で提供した鶏の「空上げ」は隊員達に大好評だった。空自「空上げ」には、「空自」全体でより「上」を目指す意味が込められている。
 空自空上げの普及・定着を目指し、@空上げを題材とした空自調理競技会の開催、A各基地の空上げレシピの共有、B空自空上げの「のぼり」作成等を計画している。部外向けとして、@空自・各基地HPでのレシピ紹介、A空自調理競技会のメディア報道、B地元商工会・企業などと協力した特産品化による地域振興への寄与等を行っていく予定。広く普及し、若年層が将来空自に入隊するようなきっかけ、地域振興への寄与、空自の良好なイメージの構築・PRの一助になるような取組みにしたい。基地を訪れた際に、この基地のオリジナルの空上げはどんなものかと話題にして頂ければありがたい。

講話に続き、3名の正会員から5つの質問がなされ、質疑応答が行われた。

Q1:女性隊員を活用するにあたり、女性隊員の募集状況は如何か。
A1:任期制隊員の募集は、男子は厳しいが、女子の募集倍率は高く多くの志望を頂いている。しかし、一度に受け入れ可能なキャパシティの関係で急激に採用者数を増やせない状況であり、模索している。

Q2:後方職と運用職の交流配置を試行するという話しを耳にしたことがあるが、進んでいるか。
A2:運用と後方の相互配置ではなく、それぞれの中で、より幅広い補職をしようというものである。期待されるのは3佐以上1佐までであるが、例えば高射幹部を敢えて要撃管制幹部の配置につける等の試行を現在行っている。補職前教育を行い、将来、1佐クラスになったときに、運用、後方それぞれにおいて自己の職域以外のことも分かるよう幅を広げられるような制度設計、教育課程の新設・改革も視野に入れて、試行を開始したばかり。

Q3:女性操縦者の現状は説明を受けたが、全体的な操縦者の養成状況は如何。
A3:東日本大震災でF-2はダメージを受けたが、今年度末には13機となってある程度の態勢に戻り、戦闘機操縦者の課程については大分回復してくると見ている。今後10年間は操縦者の大量定年期を迎える。今後どのような航空機が装備されるかにも拠るが、退職者数とほぼ同じレベルで新人養成を行い、定数を維持していく見込み。様々な問題はあるが、今後も創意工夫しながら頑張っていきたい。

Q4:最先端技術を取り入れた戦闘機F-35に係る次期中期防における教育体系について、どう考えているか。
A4:F-35操縦者は、最初の部隊建設要員は米国委託教育で、今年の夏からは国内教育で養成する。当面の間は、部隊経験者の機種転換になるが、近い将来、F-15/F-2の戦闘機操縦課程を修了した新人が最初からF-35の部隊に行く時代が来る。課程のシラバス等は運用試験を通じ検討し、何年かかけて試行していくことになろう。現時点において次期中期防の内容はまだ模索中。F-15/F-2の部隊のみでは今後新人教育の所要が賄いきれなくなるので、F-35の部隊にも新人が入ってくる時代が遠からず来る。

Q5:サイバー分野の人材育成・確保は、部内で行うのか、アウトソーシングして素養の高い人材を外から導入することを考えているのか。
A5:部隊の規模や、どこが受け持つのか、組織が通常の自衛隊の組織編成のような縦社会の指揮系統かフラットな部隊か等、模索中。フラットな部隊になるとしたら、その中での人材の養成管理、将来的なポストがなかなか作れなくなる。個人的には、自衛官を充てるのが正しいとは必ずしも思わない。知見を持った企業へのアウトソーシングや「共働」もあるだろう。人材が行き来する制度作りも必要。部内で素養のある隊員を育て生涯自衛隊にいるというのは、おそらく成り立たないモデルだと思う。

 

 約15分間に及ぶ活発な質疑応答の後、岩ア会長から、人を育てる重要な役割を強調しつつ、講師に対する激励と感謝の挨拶があり、握手が交わされた。 最後に講師からJAAGAに対し、引き続き空自・日米空軍種間交流への支援・協力をお願いする旨の挨拶があり、満場の拍手をもって講演会は閉会した。
 今回の講演は空自・米軍関係に直接焦点を当てた内容ではなかったが、それ故に、空自の人事教育に係る様々な取組みや課題をその部門の責任者である人教部長から問題意識も含めて直接伺えた貴重な機会となった。(木村理事記)

 


空幕部長等講演会及び「つばさ会/JAAGA訪米団」報告会