平成31年2月21日(木)、小惑星探査機「はやぶさ2」がリュウグウ着陸に向けてホームポジションからの降下に入った中、グランドヒル市ヶ谷「芙蓉の間」において、「つばさ会/JAAGA訪米団」報告会(1310〜1350)及び航空幕僚監部装備計画部長阿部睦晴空将補による「『進化』に向けた空自後方の取り組み」の講演会(1400〜1545)が行われ、JAAGA会員70名(正会員47名、個人賛助会員5名、団体賛助会員1団体1名、法人賛助会員10社17名が聴講した。

【「つばさ会/JAAGA訪米団」報告会】
 平田JAAGA副会長から平成30年度の訪米概要として、岩崎JAAGA会長を団長とする11名の訪米団が9月12日に羽田を出発し、ハワイ州パールハーバー・ヒッカム統合基地(Joint Base Pearl Harbor - Hickam)に3日間(インド太平洋軍司令部、太平洋空軍司令部、ホノルル総領事公邸等を訪問)、ワシントンD.C.に6日間(JAAGA名誉会員と交流、米空軍協会(AFA)コンファレンスに参加、空軍参謀本部及び統合参謀本部の部長等と意見交換、駐米大使公邸等を訪問)滞在し、21日に成田に帰国した旨が説明された。
 研修成果は3点に集約され、@関係者の献身的な調整、積極的な支援により、様々な教訓が得られたこと、A米軍人等との意見交換、AFAコンファレンスへの参加を通じ、米(空)軍の現状を確認するとともに、日本及び航空自衛隊に対する信頼と期待の大きさを痛感できたこと、B日米間の相互理解の促進に寄与できたことが述べられた。
  引き続き、成果の細部及び各訪問先での活動内容が説明された(内容は、JAAGAだより第55号(平成30年12月17日)掲載記事「『つばさ会/JAAGA訪米団』AFA総会参加等報告」を参照)。各訪問先での突っ込んだ意見交換の様子や、AFAコンファレンスにおいては3日間で30を超えるパネルディスカッション等に参加するとともに合間を縫って多くの軍人と意見交換したこと等、随所にエピソード等もちりばめられた立体感ある内容に、聴衆は頷いていた。
 その中から、ワシントンD.C.でのJAAGA名誉会員との夕食会における日米代表の挨拶に、制服組OBの交流が日米の信頼関係の維持強化に果たしている役割が端的に表れているので、ここに要旨を紹介する。

〈岩ア会長〉:
 JAAGA創立22年目、20回目の訪米となる。JAAGAの訪米に際しての名誉会員の皆様の心温まるサポートに、改めて感謝する。JAAGAの目的は米空軍と航空自衛隊の架け橋になることであり、20年間で多くの場所を訪問し各地で親しく意見交換してきた。米空軍と空自の関係は大変重要であり、今後も皆様には引き続きJAAGAの活動への一層のご理解とご協力をお願いしたい。

〈エバハート名誉会員(Gen.(Ret.) Ralph E. Eberhart)〉:
 JAAGAの訪米は、日米空軍の緊密な関係に計り知れない貢献をしている。「The Stars & Stripes」で日米の指揮官が隣り合わせに並んでいる写真をよく見かけるが、日米空軍の大変良好な関係がアジア太平洋地域の安定に寄与している。日米の空軍間の関係の更なる深化を願っている。

 定刻に達し、時間的制約から質疑応答の時間は設けられず、多くの関係者の献身的な事前調整、現地での積極的な支援により円滑・充実した研修となったことに対し感謝の意が表され、報告会は終了した。
 休憩に先立ち司会の平本理事から、ブルース・ライト名誉会員(Lt. Gen. (Ret.) Bruce A. Wright)がAFAプレジデントに就任したとのアナウンスがあった。

 

【航空幕僚監部装備計画部長講演会】
  阿部睦晴空将補:〜「進化」に向けた空自後方の取り組み〜


 冒頭司会者から、講師は補給、教育、開発等の幅広い勤務経験を有し、29年12月から装備計画部長として現行中期計画事業の完成と新大綱の下での新中期計画策定等に空幕装備計画部門の責任者として日夜立ち向かっていること、及び、本日は30大綱、31中期の内容を概観しつつ、空自の「進化」に向けた後方部門としての重要ポイントは何か、を中心に話される旨が紹介された。
 講師から、JAAGAの支援・協力への謝意とともに、出身地である愛媛県今治市宮窪町(しまなみ海道の大島)は御影石の産地として有名である旨が紹介され会場の雰囲気が和んだ中、いよいよ本題に入った。
 @新たな防衛計画の大綱の概要、A新たな中期防衛力整備計画の概要、B「真に機能する航空自衛隊」を追求する上での課題、C後方の取り組み、D結言、の流れで、防衛関係費の構造等専門的なことは素人にも分かるよう、重要事項はスライド脇まで移動して力説しながら、丁寧に説明が行われた。

講話の概要は次のとおり。

1 新たな防衛計画の大綱(30大綱)の概要
 始めに大綱本文にもある「従来の延長線上ではない真に実効的な防衛力を構築する」という観点から、今空自に何が求められているかについて、私なりの考えを簡単に説明する。
  16大綱まで踏襲されてきた基盤的防衛力構想は、22大綱で「動的防衛力」、25大綱で「統合機動防衛力」と形を変え、「平成31年度以降に係る防衛計画の大綱」(30大綱)では「多次元統合防衛力」とされた。30大綱は、NSCが設置され25大綱の時に「国防の基本方針」に代わり作られた「国家安全保障戦略」を前提とした上で実質的に初めて策定された大綱と認識している。NSCが中核となって作られ、我が国の防衛にとって何をなすべきか論理的に導かれたものとなっており、我々としては実現に向けて大きな課題を与えられたと考えている。特筆すべき点としては、新たな領域(宇宙、サイバー、電磁波)の優位性獲得の重要性とともに、従来の陸海空の区分から脱却した領域横断的な連携が求められている。(その他空自の将来体制についても説明)

2 新たな中期防衛力整備計画(31中期防)の概要
 (計画の方針、計画の基本、31中期防間における空自の主要な整備内容、基幹部隊の見直し等、領域横断作戦に必要な能力の強化における優先事項等、について説明)
 従来からの変化事項として、中期計画策定後に防衛省から各装備品別の単価が別途公表されている。なお、空自関連の主な計画としては、F-35A×45機取得のうち18機は、STOVL(短距離離陸・垂直着陸)機能を有する戦闘機を別途機種選定し整備する。また、宇宙・サイバー・電磁波領域においては宇宙状況監視システムの整備を、従来領域においては太平洋島しょ部への移動警戒管制レーダー等を運用するための基盤の整備やスタンド・オフ・ミサイルの整備等も計画している。
 一方、常備自衛官定数等は、空自は平成30年度末の水準が目途とされ、部隊新編等は現在の定員を有効活用しなければならない。
 また、計画の実施に必要な防衛力整備の水準にかかる金額(所要経費)は概ね27兆4,700億円(平成30年度価格)が目途であるが、一層の効率化・合理化の目標額が1.97兆円であり、予算の編成に伴う防衛関係費は概ね25兆5,000億円程度を目途とすると定められている。なお、示される防衛関係費の規模について、今中期の「枠内」から31中期では「目途」となったものの、今中期の7,000億円の効率化要求に比し、31中期ではその約3倍という大きな効率化が求められている。

3 「真に機能する航空自衛隊」を追求する上での課題
 30大綱で描かれた真に実効的な防衛力を整備し、「真に機能する航空自衛隊」となるためには、制約事項を含めいくつかの課題や問題も存在する。
 その第1は、少子化に伴う人口減少問題である。平成22年の1億2,800万人をピークに人口は減少フェーズに入っており、50年後には約4,000万人減(30%減)となる。「静かな有事」とも言われるとおり、今後10年間で総人口が6%減少するのに対し、募集人口である18歳人口は約12%と倍の勢いで減少し、募集環境は一層厳しくなる。真に機能する空自の追求に当たっては、@マンパワーの費用対効果の向上、A所属隊員を有効に活用できる組織・業務作り、が人的な観点において重要なポイントとなる。
 第2に、予算面について考えてみたい。31中期防において、防衛力整備の水準に係る金額27.47兆円、各年度の予算編成に伴う防衛関係費25.50兆円、及び事業に係る契約額17.17兆円という3つの数字が示された。26中期防間における防衛関係費は、24.31兆円(人件・糧食費10.70兆円、一般物件費4.95兆円、歳出化経費8.65兆円)であり、新規後年度負担は10.29兆円であった。従って31中期防間の防衛関係費は26中期防間の同費に比し、防衛力整備の水準にかかる金額ベースで3.16兆円(13%)、各年度の予算編成に伴う防衛関係費ベースで1.19兆円(5%)、事業に係る契約額で1.93兆円(13%)、それぞれ増えている。しかし、人件・糧食費の伸び分や消費税増税分、更には26中期防間における新規後年度負担の歳出化経費上回り分を考慮すると、防衛力整備の水準に係る金額ベースでは0.82兆円(3%)の増となるが、各年度の予算編成に伴う防衛関係費ベースでは1.15兆円(5%)の減となる。また、事業に係る契約額においても消費税増税分を考慮する必要があり、これらを踏まえると、「見かけほど増えている訳ではない」というのが一つの見方であろう。
 第3として、保有資産に係る状況を見てみると、施設を除いた保有資産は10年間で約19%増加しているのに対し、維持費は約22%減少している。新たな脅威に対応するため防衛力を急ピッチで整備した一方、維持費が追随できずややバランスを欠いた状況に陥っていることは、今後の留意すべきポイントである。
 これら3点を踏まえると、今後を考える上で最も大切なことは、全体バランスを中核として各種施策を推進していくことに尽きるのではないかと考えている。作戦の推移への迅速な対応のため部分最適を追求しがちな空自にとって、「全体最適」は、決して簡単などではなく空自の組織文化を変えるほど大きな事である。この点を含めて「進化」する必要があると考えている。そして空自が真に機能するためには、我々後方も考え方を含めて変えていく必要がある。
  「全体最適」に向けたバランスを確保するためには、少なくとも次の5つの視点が必要と考える。
(1)「航空」と「宇宙」と「サイバー」と「電子戦」
 ややもすると、領域ごとに何をすべきかを考え、その結果を「ガチャッとホッチキスする」というやり方に陥りがちだが、4つの領域の整理に当たっては、資源が潤沢でないところも踏まえ少し見方を変え、「航空」を中核としつつ、それぞれの分野の良いところを活かしながら補完・融通し合い全体のバランスをとることで、互いに足を引っ張ることのないようにすることが大事である。
(2)「運用」と「後方」
 インプットとアウトプットのバランスに係る課題は、現在空幕内では「予算と活動の乖離」と表現している(「予算と活動の乖離」のグラフを提示)。 よく、「後方の維持経費予算が少なく特別緊急請求が急増し、補給処において必要なものを買うことができない」、「予算が少なくても可動率は維持できている」というような話を耳にしたことがあるかも知れないが、実態を分析してみると、機関要求に対する査定を表す「予算確保率」に対し、設定した飛行時間に対する執行を表す「FH執行率」を見てみると、FH執行率の方が約1割上回っていることが分かった。これは、空自がここ10年間ずっと、予算分より1割多い活動をしてきたことを意味する。加えて後方予算は査定どおり執行できるとは限らない中、当然そのような状況にも限界があるものと考える。このため「運用」と「後方」は真摯に向き合いバランスをとっていかなければならない。更には、意図しない航空事故等に対し予め予算要求することは出来ないことから、各種事故等によって本来計画に充当できる経費が少なくならないように努めていくことも忘れてはならないと考える。
(3)「部隊」と「企業」
 後方活動は部隊(官)と企業(民)双方の取り組みをもって成り立っている。官民の役割分担はこれまで比較的安定して保持されてきたが、後方活動を取り巻く環境に応じて変化させるべきである。お互いのデメリットを補いメリットをより発揮できる様、後方活動における部隊と企業の役割のバランスを常に求めるべきである。
(4)「平時」と「グレーゾーン」と「事態対処」
 年間の訓練所要を支援するのに必要な維持費を基準として予算要求を行っているが、平時からグレーゾーンに何時変わるのかは予期できず、グレーゾーンの所要が平時の所要を超える場合、そこをどう担保するのかという問題がある。より実戦的訓練に供しうるシミュレーターが発達してきたことや、FH経費の捻出が困難な状況を踏まえると、今後シミュレーターにより実機による訓練所要を代替していくことが考えられ、これによって平時の維持費は抑制できる。他方グレーやそれ以降の活動が更に大きい場合には、その超える部分を如何に確保しておくのかという点に関し、バランスを考えなければならない。
(5)「我が国自身の防衛体制」と「日米共同」と「安全保障協力」
 課題の解決に向けて複数のアプローチが存在する中、まずは我が国自身の防衛努力をしっかり行った上で日米共同や安全保障協力と適切に組み合わせ、効果的・効率的に課題の解決や改善を図っていくアプローチの組み合わせについて、バランスを考えていく必要がある。

4 後方の取り組み
 前述した5つの視点を踏まえたバランス確保の観点に立った空自後方の取り組みを説明する。
(1)意識の改革
 個別最適の組織文化から全体最適追求型にシフトさせるためには、全体最適を考えることの有効性、必要性、重要性の意識を芽生えさせ定着させることが必須である。現在、TOC(Theory of Constraints:全体最適マネジメント理論)を活用した改善活動を、まずは後方分野を起点に推進している。TOCの活用とは、全体の中のボトルネック(制約)を見つけ、それに資源を集中して改善し、全体最適を達成することと理解している。民間では随分活用されており、米空軍でもその活用により後方支援のパフォーマンスが大きく改善された例がある。空自においても今年度から、後方業務をテーマに、TOCを活用した改善活動を導入すべく試行を開始している。まずはTOCの有効性を検証し、今後はTOCを活用した意識改革を実施できる人材の育成から開始に向けて取り組みを進めていきたい。空自のTOC活用は緒に就いたばかりだが、防衛装備庁の支援のもと29年度に2空団、2補で体験的に実施した。30〜31年度は航空機整備関連業務において可動率向上のために各組織、各機能、官民がどのように努力を結集していくことが効果的であるかを主眼に、空自契約によって部外コンサルタントの支援を受けながら、2空団、2補、3補において所要の検証、検討作業を実施している。32年度以降は、後方業務全般において、必要な時期に必要な業務を対象としてTOCを活用した改善活動を実施できるよう、理論体系の理解促進に関わる人材育成を含め、持続的かつ独自に活動できる態勢の確立を図っていきたい。
(2)見える化
  運用と後方のバランスをとる必要性を説明する際に使用した「予算と活動の乖離」のグラフを作成できるようになったこと自体が、運用側とキャッチボールしバランスをとるための「見える化活動」の一つと考える。少ない予算の中での後方活動は、次年度分を前借りしながら、例えば、IRAN機から部品を取り外して部隊に回し、年度末に納入された部品をIRAN搬出機に取り付けるというような、実に涙ぐましい努力をしながら、運用要求を支援してきた。ところがもう既に限界に近づいてきており、今後は経費の不足に伴い可動率がどんどん低下していくほど逼迫した状況にあるというのが後方の認識である。見える化を達成できれば、運用、後方が課題認識を共有できるため、予算と活動の乖離を改善する、即ち、運用と後方のバランスを全体最適という形で実現することが、理論的にはできると考えている。具体的には、運用と後方両方の視点から相互の状況、課題を認識し、「目的意識」と「当事者意識」を共有することにより、適切なFHの設定と関係経費確保に向けた努力やシミュレーター等の活用にも代表されるようなFH関連経費の低減に向けた協力など、費用対効果の高い後方支援活動を実施していきたい。見える化のみではなく、運用、後方双方の対話やこれに資する継続的な評価、分析などの活動も不可欠な要素であり、それらにも取り組んで行くつもりである。
(3)官民役割分担の見直し
 部隊、補給処、民間企業がそれぞれ役割を分担することで、後方活動全体が構成されており、空自内部のみならず企業の経営環境など外部の環境変化も踏まえると、官民間または民民間での維持整備に係る役割分担における配分バランスの見直しも、今後は必要になってくるとともに、最終的には官民連携強化にもつながるものと考える。加えて国内企業は言うまでもなく、国外企業についてもイコールパートナーとしての役割分担を設定し、後方支援活動を一緒に出来る態勢づくりが必要である。例えば、修理、製造に関わる工程は全て民間企業が実施していたが、部品、材料の調達に長期間を要するものは官が事前に取得し官給することにより、全体のリードタイムを短縮出来るというアイデアがある。現在の契約方式(原価計算方式)では、原価に材料費も入っており、材料等を官給すると会社は利益が減る側面もあるかもしれないが、調達リードタイムの短縮は、民にはキャッシュフローが良くなり官にとっては後方が運用ニーズに早く対応できるという、双方にとってのメリットがあるので、官民連携のもと可能な限り取り入れることができるよう進めていきたい。
 また、現在具体的に準備を進めている施策としては、航空機支援整備業務等の部外委託の拡大がある。人口減少による人材不足、自衛隊の活動領域の多様化により、より少ない人的資源で任務達成しうるかが、空自の一つの大きな課題になる。作戦運用には直結しない航空機の支援整備等を企業に委託する施策の拡大を進めているところである(T-3、T-7、U-680A、教育集団隷下のT-4の支援整備の部外委託状況について説明)。支援整備の部外委託については、範囲のみでなく委託要領についても見直しを図っている(IRANと同様の整備作業を現地補給処整備として部隊で行うT-400のオンサイト整備についても説明)。企業と空自はWin-Winの関係にならねばならず、互いにメリットがあるならば、従来のやり方にとらわれず、新しいやり方を追求していく。
 このためには民間企業と空自が一体となって目的を達成するべく、目的意識と当事者意識を共有し、甲乙の関係から脱却し、イコールパートナーとして補給処機能の全体最適の実現を図り、費用対効果の高い後方支援活動を目指したい。そして平時から有事まで切れ目がない後方支援を実現するための更なる全体最適への足がかりにもしたい。
 なお、官民の役割分担を見直す上では、空自後方組織についても適切に見直す必要がある。空自の「サプライチェーン」を機能別に表示すると、予算要求に始まり、所要量の算定、取得、保管、配分、輸送、整備、処分という一連のフローの中で、多種多様な物品が流れ、循環している。このような中、各業務の実施者は隊員でなければならないのか、会社への情報提供により補給処の資材計画業務の大部分は民間でも出来るのではないか、更には民間の倉庫や輸送力等をもっと活用できるのではないかという観点で、後方組織全体を見直す必要がある。
 更には新規装備品の多くはシステムが統合され現行の空自特技職の区分では適応できなくなっている場合があり、新機種導入に合わせて航空機整備員等の整備範囲を拡大させていく(F-35A、C-2、KC-767、E-767、KC-46Aを対象機種としたマルチAPG、マルチアビオについて説明)ことも、全体の資源、人の活用上避けては通れない問題である。一方でこれまでの特技職の区分が適した航空機もあるので、そのバランスを考えながら進めていくことが大きなポイントである。
(4)可動と稼働
 平時の能力をもって、グレーゾーンはもとより有事にも対処できるようにしておくことが重要である。そのためには、保有機の中でどれだけが「可動」できるのかということだけではなく、保有機をどれくらい「稼働」させるのかという活動量にも着目する必要がある。つまり、平時における活動量とグレーゾーン以降の活動量に差があるならば、その差分を念頭においた維持整備・備えを行っておく必要があり、運用を担う統幕とも連携してしっかりとした備えを実施していきたい。
(5)3つのアプローチ:「我が国自身の防衛体制」と「日米共同」と「安全保障協力」
 「弾」は自分たちで作って持っていれば良いが数年後更新しないといけないので、一定の数しか効率的には持てない。いざ必要という時に、米軍に本当に依存しきれるのか。米国以外に求める必要がある時に、使えるミサイルをどうやって確保するのか。現在、日英で新たな空対空ミサイル(JNAAM)の共同研究を進めている。自国だけでなく日米だけでもなく、他の国も含めて、一番困っているところをどう確保するかという視点でアプローチの組み合わせのバランスをとっていくことが必要である。あくまでも一例だが、ACSAが様々な国との間へ拡大されていく流れの中で、このバランスの観点に関しても色々な施策を進めていきたいと考えている。

5 結言
 新大綱、中期防の策定を受けて、限られた資源の中で空自は大きな変化をスピーディーに行うことが求められている。また、新たな領域だけでなく、空自がかつて経験したことのない既存の領域における運用態勢の整備(STOVL機の運用等)についても取り組む必要がある。この様な中、「全体最適に向けた意識改革」を推進し、速やかに現状の後方支援態勢の機能回復を図り、足下を固め、「真に機能する空自」の実現に寄与していく所存である。真に機能する空自実現のためにはバランスをとることが重要と冒頭申し上げたが、その全体最適を進めていく中で重要になってくるのが、「目的意識」と「当事者意識」である。時代は変われど、働くのも問題解決するのも人であり、空自が昔からずっとやってきた隊員を育てていくということに、「意識改革」という着意をもって、より精進していきたい。

  講話に続き、2名の正会員から、空自後方の窮状は努力によって解決するレベルを超えていると思われるので実情を訴える必要性があるとの意見、及び、F-35A取得数とF-15の関連性に関する質問がなされ、講師は適切に応じた。特に前者については、予算構造を含めてしっかり理解してもらえる努力をする必要性とともに、一方で、厳しい安保環境下で正面装備に目が行くのは致し方ないので、現行程度の後方経費で何とかやっていける道を探すことも大切であるとの認識が示され、シミュレーターを活用したFHの低減や、官民の役割分担等、色々なことを同時並行的にやっていくことが必要である旨、再度強調された。
  約10分間の質疑応答の後、岩ア会長から、講師の分かり易く丁寧な講話に対する謝意、厳しい後方経費の中で知恵を絞り、より実効性のある真に戦える空自を作って頂きたいとの激励、今後とも空自のためにJAAGAとして出来ることをやっていくので色々な意見をいただければありがたいとの希望を込めた挨拶が行われ、最後に握手が交わされ、満場の拍手をもって講演会は閉会した。 (木村理事記)  


 

航空幕僚監部部長等講演会及び「つばさ会/JAAGA訪米団」報告会