ご紹介ありがとうございます。防衛研究所の優秀な研修員の皆さんとまたお会いすることができ、うれしく思います。皆さんの教育に取り組む姿勢とこれまでの業績に心から敬意を表します。日本及び国際社会から自衛隊員、軍人、文民、民間人の最も優秀な人材が40年以上にわたり防衛研究所に入所し、日本の防衛と周辺地域におけるその影響に関係する重要な事柄について学んできました。皆さんが防研で学んだことをぜひ同僚や上司と共有して頂きたいと思います。
 本日は約30分、日米安全保障同盟の重要性について話をさせていただき、その後で皆さんからの質問にお答えします。質疑応答はオフレコを原則として聞きたいことは何でも質問して下さい。何を聞いても構いません。私が答えられる質問であればこの場でお答えいたしますし、答えることが出来ない質問はリープハート中佐を通して後日お答えいたします。難問を歓迎します。在日米軍司令官として、日米安全保障同盟について語る場を設けて下さいました事に感謝申し上げます。この同盟は日米両国が誇りとするものであります。両政府が自衛隊と軍とのパートナーシップをさらに強固なものにする為どのように取り組んでいるかここで述べさせていただきます。

 我々は日米安保同盟をアジア太平洋地域の平和と安定の礎と捉えています。 50年以上に亘る日米の緊密な関係は、世界で最も重要な地域の一つのこの地域に平和と繁栄そして安定をもたらしました。更なる50年、またそれ以降も日米同盟の明るい展望に自信を持っていますし、また期待をしています。平和で力強いアジアの為に双方の役割や任務についての戦略的対話を通し同盟の強化をはかり、地政学の環境を反映する二国間の計画策定や訓練を継続し、組織を近代化しかつ完全に統合化し、より良いパートナー、そしてより良い同盟国となる為の努力をし、更には他の友好国及び同盟国と共に努力を惜しまないというこのような様々な活動から判断すると、我々の未来は実に明るいものであります。 日本の考え方やその活動から、地域における戦略的役割が目に見えて変化しているのがわかります。ここ数週間、自衛隊が人道復興支援のためイラクに派遣されました。イラクにおける他の連合軍と同様、勇敢な自衛隊員は問題を抱える彼の地に安定と平和をもたらしています。連合軍は残虐な独裁者からイラクを解放し、フセイン政権が国に与えた害悪からイラクを回復させるべく入念に平和的にその実力を存分に発揮しています。イラクにおける自衛隊の存在は、日本がその国際的な影響力を使い世界が今日直面している難問解決に役立ちたいという姿勢を雄弁に物語っています。これは日本にとって歴史的なステップであり、イラク国民も日本政府の支援を大変感謝していると言っていいと思います。イラクにおける支援を見ますと、日米同盟はアジア太平洋地域の平和と安全の為だけではなく、全世界における平和と安全の要でもあります。

 日本とアメリカは共通の課題を抱え、共通の価値観を持ち、共通の利益を共有しています。例えば安全保障の枠組みについて見てみますと、日本への攻撃はアメリカへの攻撃ととらえると、アメリカは言っています。わが政府の最も高いレベルにおけるその発言は、両国のお互いに対する最も確実なコミットメントであり、それが両国を繋いでいます。また両国の首脳に目を転じれば、ブッシュ大統領と小泉首相の緊密な絆がわかるでしょう。二人の友情が、共通の問題に取り組み、共通の解決策を見出す大きな要素となっています。そして小泉首相の際だったリーダーシップが、最近の安全保障関係の発展や強化の原動力となっています。日本の各方面のリーダーや決定権を持つ方々および国民の皆さんと我々との暖かく友好的な協調関係の代表的なものが、大統領と首相の関係であります。 例を挙げますと、統合幕僚会議の石川議長と私は 2月にキーンエッジ演習を行いました。日米合わせて約2,500名の人員が参加したこの演習では、机上のシナリオとコンピューターによるシミュレーションを使い、この地域での緊急時に必要な対応手段の訓練を行いました。日本周辺事態の宣言を想定し、それにまつわる様々な課題と問題に日本の演習参加者と共に取り組みましたが、多くの参加者にとっては初めての経験でした。日本周辺事態の宣言は日本の周辺地域に、同盟関係にある日米両国の対処が必要とされる事態が起こった際に、その紛争を平和的に解決する為に両国が共に取り組み、相互支援を提供するという概念に基づいています。日本周辺事態の宣言は、紛争へのけん制、日本への攻撃防止、そして紛争の平和的終結の為にアメリカと日本が共に活動することを確認させるものであります。 演習はすばらしい成果を挙げ、我々は様々な教訓を得ました。現在はカウンターパート同士でこれからの取り組みや相互支援の向上に努めています

 この他にも日米両サイドで安全保障関係を発展させ強化するための活動があります。皆さんはもちろんご存知でしょうが、現在日本の国会では有事法制に関する七つの法案の審議が進んでいます。この中には国民を保護する法案や在日米軍の作戦運用を支援するものがあります。小泉首相は閣僚の方々に対して、これらの法案の成立は緊急の課題であると強調し、我々も今国会での成立を望んでいます。 在日米軍を支援する法案は、日本が武力攻撃を受けている事態において、自衛隊による兵站及び弾薬の提供を可能にします。また、日本への攻撃が差し迫っていると政府が判断した際には、首相は米軍に対し個人所有の土地や建物の使用を認可することが出来ます。別の法案では、緊急事態の際に自衛隊と米軍が港湾や空港、道路、電波などの公共施設を優先的に使用できるようになります。 有事関連7法案に加え両政府の防衛関係代表者が新しいACSA(日米物品役務相互提供協定)に署名しました。これにより必要時に自衛隊と米軍が更なる緊密な活動関係を構築することが可能になります。両国が協議し協力している案件は他にもたくさんあります。北朝鮮による脅威は重大です。日本にとっては直接の脅威であり、核武装した北朝鮮の脅威は全世界が懸念すべき事であります。皆さんも報道を通してご存知でしょうが、今年の 9月から米海軍は日本海にイージス戦闘システム搭載の駆逐艦を配備します。これは北朝鮮を含む他国からの攻撃に対するミサイル防衛ネットワークを構築する共同作業の一部であります。私はこの地域における戦域弾道ミサイル防衛能力の向上に期待しています。また、両国は外交面での活動も継続して行っていきます。北朝鮮の非核化の為の第2回目の6カ国協議が2月25日から28日まで北京で開催され、進展がありました。アメリカの目標である、プルトニウムと濃縮ウランの核計画を含む「検証可能かつ後戻りできない完全な核放棄」は北朝鮮以外の参加国が受け入れました。協議が日米の相互利益にとって進展していることをうれしく思います。また、6カ国協議は北朝鮮の核問題を超越し、北東アジア地域の定期的な安全保障フォーラムに発展する可能性もあります。しかしながらやらなければならない仕事はまだ多くあります。

テロとの戦いに於いて、米国は日本の貢献に非常に感謝しています。日本はこれまで、この戦いで重要な役割を果たし、これからも果たして行くことでしょう。イラクにおいて自衛隊は人道的役割そして公な立場での役割を担っております。また日本は他にも重要な支援をしています。インド洋での連合軍の船への燃料補給やテロの掃討及びテロへの資金凍結などです。これらの支援は重要であり、アメリカは感謝していますが、その支援の本質を見失ってはいけません。テロとの戦いへの日本の貢献はアメリカとの友情や同盟関係だけによるものではありません。世界が直面するテロとの戦いに日本が参加したのは、それが最も国益に適っているからであります。 イラク復興を支援する日本のコミットメントもまた特筆すべきことであります。戦後の復興は軍民の密接な協力関係が必要であるということを、これまでの紛争の経験から学びました。復興への進展は当然のことながら安全をもたらします。そして、安全な環境を供与する事が、民主主義による政治的プロセスを進めるカギとなり、それこそが我々が望んでいるものであります。まだまだリスクはあります。しかし何十年かぶりでイラクの富が、宮殿や軍隊そして抑圧の道具の為ではなく、国民の為に使われるのです。最終的にはその事がイラクと世界の為になるのです。

 同様に、日米両国が相互安全保障協定の恩恵を受けていますが、それはただ単に友情や同盟国である事だけが基本となっているわけではありません。この安保のパートナーシップは日本のみならず、アメリカにとっても最も有益だからこそ存在しているのです。この安保のパートナーシップは、東アジアの安定においての確固たる基礎の役割を担っており、また世界の平和と安全の為の共同での取り組みの基本となっています。 課題に直面する時、そこには何らかの代償が伴います。財政的な場合もあるでしょう。また、個人的代償で激しい痛みを伴う場合もあるでしょう。それでも、我々の大きな責任にはその代価を払う意志が伴うことを忘れてはなりません。その代償や犠牲の大きさに、撤退し、背を向けたくなる者もいるでしょう。より良い世界を築くための課題を一歩ずつ受け入れ取り組む為には、これに断固として抵抗しなければなりません。 この事ははっきりと言われることは少ないのですが、米国と日本は共有する強さ、繁栄そして価値観の信条を基本とした明確なビジョンを共有していると、私は思います。両国は民主主義や開放された競争市場、人権へのコミットメント等の重要性、世界平和そして繁栄への信念で結ばれています。

 日本とアメリカは自然な形での同盟国であり、今述べたような価値観を共有しているが故に良き友人となれました。 将来の日本のリーダーである皆さんは、これらの価値観を理解する事と、その価値観とビジョンに繋がりがあることを理解することが重要であります。皆さんも自分自身で日本、その未来と世界のビジョンを創出することにチャレンジしてみてください。両国間には更なる協力関係のみ予測できます。我々の時代の問題や課題には、協力と調整が必要です。世界の繁栄と安定の為には一緒に取り組まなければなりません。日本が世界規模でのリーダーシップを発揮する選択をする場合、アメリカ以外に不動のパートナーはいません。

 用意しました私の話を終える前に、我々、自国を防衛すると誓った将兵について話をしましょう。皆さんは同志であり自衛隊の将来のリーダーでありますし、自国と世界に大きなインパクトを与える事が出来るすばらしい立場にいます。皆さんは高い評価も得ています。日本の自衛隊は平和の為によく訓練され、装備され、指導されていると世界に知られています。共に働く米軍人からは高い敬意を得ています。また、皆さんには豊かな国、誇るべき遺産そして約束された未来があります。 我々は相互協力、任務、指揮系統を通して共同統合訓練や相互運用性の向上の為に継続的に共に取り組んで行きますし、今後も皆さんと緊密な協調関係を保っていくことを願っています。 これらの活動を通し、日本の防衛や当地域に起こりうる不安定な緊張を事前に緩和する効果を発揮する事が出来ますし、国際的な平和活動や災害対応への参加を増大することも出来ます。共に仕事をすることにより、お互いの能力への理解や相互の信頼が深まり、更に良き友人となり得ます。その結果必要な時に必要な場所で効果を収めることが出来るのです。皆さんのリーダーシップがそれを現実のものとするのです。

 最近の出来事からわかるように、現在世界では様々な事が起こっています。また我々が住むアジア太平洋地域は難しい地域であります。今日不安定要素はたくさんありますし、将来もそれが変わることがない事は確かなことでしょう。しかしながら、その不安定要素により私たちが活動せざるを得なくなるまでただ待っているわけには行きません。世界とわが同盟が直面する現実に焦点を当て続けなくてはなりません。そしてこの現実には、力強く活力にあふれた日米安全保障同盟と自衛隊員、米軍人の誇りとプロ意識が含まれます。皆さんの一年にわたる勉学にお祝い申し上げ、これからのご多幸とご成功を祈念して私の話を終わらせていただきます。ここから皆さんからの質問をお受けします。どうもありがとうございました。

Lt Gen Thomas C. Waskow
Commander, U.S. Forces, Japan
Remarks to the National Institute for Defense Studies
April 8, 2004